最後の試合

「勝負あり」

その審判の声と同時に熱気と歓喜で場内が湧いた。

あの日、私の9年の剣道人生は幕を閉じた。

高校3年の最後の夏の大会。

 

我が校は地区予選を2位通過で県大会へと駒を進めた。

県大会は西部・中部・東部のそれぞれベスト16が集まって行われる。

保護者たちは観覧席でトーナメント表を見ながら、各々が勝敗予想をたてていた。

「ベスト8で優勝候補の高校と当たるのか」

とまだ1試合もしていないのに、その手に持つトーナメント表は赤い線で2回戦まで勝ち進んでいた。

 

 

その予想通り危なげなくベスト16まで勝ち進んだ。

そして、対するは優勝候補の高校。

スポーツをやっていた人なら感じたことがあるかもしれないが、戦う前から勝てるか勝てないかがわかるようになる。

剣を交えるまでもなく、後者の気配を感じた。

「諦めたらそこで試合終了だ」

そんな言葉をどこかで聞いたことがある。

だが、当時の私はここで負けるんだろうなと正直諦めていた。さらに言えば、毎日の稽古が本当につらく憂鬱だったので、やっとあの日々から解放されるとまで考えていた。

汗を拭うことも忘れるほどに一矢報いてやろうと闘志を熱く燃やすチームメイトたちにとても顔向けできないと思った。

 

顧問の先生が試合が始まる直前に選手を集めた。

「よし。大島、庄司は準備しろ。選手交代する。」

補欠の同期の3年生2人は急いでアップを始めた。

私を含めたチームメイトは察した。

この試合が最後なんだ。

記念試合にしようとしているんだ。と。

今までレギュラーと補欠を選手交代することなど

一度もないと言っていいほどしなかったからだ。

 

長くなってしまったので、続きは明日にしようと思う。