人生で初めて手を上げた日のこと

私はとにかく争いごとが苦手で

言い争いや一悶着ありそうな気配を感じると

その場を離れたり、どちらかをなだめたりする。

怒りの矛先が私に向いている時は

ひたすら聞き役に徹し、相手が疲れて静かになる

その時までじっと息を殺す。

それが私の処世術だった。

 

時は中学2年の部活終わりに遡る。

今となっては酷い事をしていたと自覚している。

その日もいつものように同期をいじったり

馬鹿にしたりして、わざと怒らせて

その様子を皆で笑っていた。

同期の名前を仮に竜太とする。

一連の流れを終えると、防具を外し

道場と体育館のわずかな隙間で道着を脱いで

ジャージに着替えた。

私が着替え終わり、さて帰ろうかというところで

通学リュックが無いことに気づいた。

竜太がニヤニヤした表情をした。

散々やられたお返しに私のリュックを隠したのだ。

「どこにやったんだよ」そう私が言うと竜太は

「知らねえよ」と言い返した。

竜太が隠した事は表情からしても明らかなのに。

その刹那、カッとなった私は

人生で初めて右手をグーにして人を殴った。

その時の感触は今でも覚えている。

すごく不快で、とても痛かった。

もちろん竜太にも殴られた。

人に殴られた事も初めての事だった。

 

翌日、竜太にきちんと謝罪をした。

そして人に手を上げることは今後一切しない。

そう心に誓った。